「貴様の大切な六歳の娘は預かった。返し欲しければ矢賀野池公園に来い」
「待ってください! 娘の、由衣の声を聞かせてください」
「いいだろう。ちょっと待ってろ」
「パパー、パパ―」
「冗談じゃないことはわかったろ。今から二時間後に1000万用意して公園のベンチへ置け。もちろん一人でだ。誰かにこのことを話したら娘の命はないと思えよ」
「そんな。うう、なんでこんなことに」
「悲しんでいる時間はあるのか?さっさと準備しろ!」
「はい。 ……ところでやがのいけこうえんってどこですか?」
「は? 知らないのか。お前の家からそう遠くないところにあるだろう」
「はあ。行ったことないと思います」
「おまえの家の近所のコンビニがあるだろう。あ? セブンだセブン!そこを過ぎて次の信号を左に曲がるだろう__」
「あぁ、わかりました。あの五差路の先にあるだだっ広いところですね! 今から向かいます」
「ちがうちがう! そっちじゃない。そこはただの田んぼだ! なにもないよ。なんでわからないんだ。え、うちの近くにセブンが3店もある? あーもうナビつかえ! アプリあるだろう」
「アプリ? ナビ? あーそれはちょっと……」
「なんだ! なにが問題なんだ」
「パパはねー機械音痴なの。致命的なの。わたしがいないとスマフォで写真も撮れないの」
「そんなバカな! じゃあそうだな、ホテル! そう、お前の家から行ける距離の場所に……あーそのぉ……ラ、ふぉふぅホテルがあるだろう」
「え、なんて?」
「一風変わったホテルだ! ビジネスホテルじゃないやつ。子供が近くにいるのに言わせるな!」
「あーあの牛角のある通りの奥の方にある古ぼけた旅館のことですか? あーたしかに公園みたいなのが近くにあったようなー」
「パパ違うよーそっちは中央公園だよー。お城のかたちしたホテルはその反対方向だよー」
「子供のほうが分かっているようだな。……え、わかってるの? あーごほんっまあいい。そこだ、その場所に来い。わかったな?」
「いやーその場所がわからないんですが、何かほかに目印はありますか?」
「どうすればわかってくれるんだ!? 頭が痛くなってきたよ。うーん……。じゃあいったん子供返すから。道教えてもらいながらこっちに来い! 時間もそうだな、三時間まで待つ。間違えないようにゆっくりきなさい」
「わざわざいいんですか! ありがとうございます!」
そして十分後
自宅のドアが開く音が聞こえた。
「パパ―、ただいまー!」