朝目が覚めると、瞼をもう一度閉じた。
疲れが取れている気がしなかったし、今日は休日だった。
目をつむると、今週あった嫌なことが頭を巡り始めた。身体は疲れているのに脳は覚醒し始めている証拠だ。
良太は身体を起こし、顔を洗うことにした。
10月の朝は水道の水が冷たく感じる。良太は顔に三度、水をかけて今日のことを考えた。
この休みはリラックスしたいと思った。「なにがあってもリラックスするぞ」とまずは気持ちの問題だ。
「リラッッッックスーーー!!」
叫びながら伸びをする。よし、と意気込むと男は銭湯へ向かった。
銭湯につき、まずは長湯をすることにした。サウナもついているから身体を整えられる。
足を延ばして入る湯舟は最高だった。良太はひさしぶりにコーヒー牛乳でも飲もう、と考え今日がいい一日になる予感を感じていた。
「大体お前、昨日ちゃんと確認しただろ。大丈夫なのかって」「すいません」
良太は声のする方に顔を向けた。餅つきの臼のような体系のおじさんと餅つきの杵の持ち手のような体系の若者が、隣の浴槽へ向かって歩いてきていた。
「先方が来週、無理にでも時間取ってくれたけど__いいか!」
「あーもう、なんだよ。台無しだ」
仕事の説教をしているらしかった。話はそれからも止む様子はなく、良太は男湯を後にした。だいたいお前らなんで銭湯にいんだよ。仕事はどうした、仕事は。
良太はせっかくリラックスできてたのに、そのリラックス分を一瞬で帳消しにされた気分だった。
気分転換に今度はマッサージをすることにした。
うつぶせになり背中を押される感触は気持ちよくて寝てしまいそうだった。
「現在、調査中とのことです。繰り返します。○○市のチョコレートを生産している、大工場で爆発事故がありました。__」
画面は見えないがニュースが流れている。チョコレート工場といえば隣の市に有名なところがあったな……そんなことを思いながら良太は目を閉じていた。今にも寝そうでまともな考えなどできなかった。
「続いてのニュースです。今日は夕方から強い風が予想されます。お出かけの際は早めに帰宅するよう心がけましょう」
買い物はやめにしなくちゃな……そんなことを閃いたころに良太は眠りについた。
良太は肩を叩かれ目を覚ました。120分コースはほぼ眠ってしまっていた。マッサージ師に礼をいい、銭湯をでた。
その後スーパーで買い物を済ませ、帰宅した。酒とおつまみを買い込んだので、このままゆっくり晩酌にしようと思ったのだ。
家に帰ると部屋着に着替えた。また少し眠りたいな。良太は買ったものを冷蔵庫に雑に入れて、少しだけ眠ることにした。
目を覚ました。ガタガタという窓の音が目覚ましになったのかもしれない。外をみるとビュービューと窓越しでも聞こえるうるさい風の音が部屋に届いていた。
良太はおつまみとビールをテーブルに持っていきソファに腰かけた。ソファの近くの大きな窓がガタガタと揺れている。
雨戸を下ろすか考えたが、やめた。ビールを呑んでちゃんと考えるということを放棄した。
べちゃっ
何かが窓にぶつかった音がしたので男は驚いた。茶色いジェルのような何かが壁に数滴くっついていた。
外の景色の奥の方をみつめる。竜巻がこちらに近づいているのが見えた。異質に見えたのはその色が茶色いことだった。
そういえばと、今日聞いたニュースを思い出した。チョコレート工場が爆発したと言っていた。この茶色のジェルはまさか……!
良太の家に向かって近づくにつれ、壁にチョコレートが張り付く。
外に出て逃げるにはもう遅い。良太は手に持っているビールを見つめて、缶を握りつぶしながら、一気に飲み干した。
続いてもう一本のビールを取り出してそちらも飲み干す。もうどうにでもなれ。
良太は酔いつぶれ意識が朦朧としてきた。
翌朝目覚めた良太は、友人に昨日の出来事を話した。
友人は災難だったね、と同情の声をかけた。
「リラックスはできたのかい?」
「ああ!」身体だけは軽かった。