あるとき、神経内科医の依頼で、過去三か月にわたって右腕が麻痺したままだという、中年の女性患者を診察したことがある。
突然発症し、これといった要因も神経学的な問題も見つからないため、心理的な原因を疑っているということだった。
私が診察したとき、彼女の手は膝の上にぐったりと乗せられていた。
神経の検査では、右肩をわずかにすぼめることはできたが、腕や指は動かせなかった。
反射は正常で、触感覚と針刺激の感覚も異常はなかった。腕の筋肉組織の減少はごくわずかで、痙攣はみられなかった。
「何かストレスになっていることはありませんか」
「特にありません。腕が麻痺していて何もできないことはストレスですけど」女性患者は慎ましくそうと答えた。
私は彼女の生活についての情報を、彼女自身が話しやすいように丁寧な相槌を心掛け尋ねた。
彼女は家事をほぼ一人でこなし、高校生になったばかりの二人の息子の面倒を見ているということだった。
夫について尋ねると、「まぁ、普通です。男の人ってああいうものですから」と答えた。
詳細は話してくれなかったが、夫が遊び人で彼女の腕の問題にもまったく思いやりを見せていないことを遠回しに伝わってきた。
だが、彼女は間髪入れずに言った。「ここに来たのは、夫の話をするためじゃなく、腕を治してもらうためです」夫の話をする
のを彼女は露骨に嫌がった。
ほとんど成果のないまま、診察は終わろうとしていた。
私は最後に、「もし腕が奇跡的に完治したら、何がしたいですか?」
と聞いてみた。すると彼女は突然感情をあらわにし、驚く私の目の前で、右手で拳を作って肩の高さまで上げ、勢いよく振り下ろしながらこう言ったのだ。「夫の背中に包丁を突き立ててやります!」
「あなた今、腕を上げましたよ!」私がそう言うと、彼女は。
「上げてませんよ、だって麻痺してるんですから」