文庫。ディスク付き

ショートショート

中古ショップの自動ドアが開き、涼しげな風が店内に吹き込んだ。
「いらっしゃいませ」の声はない。入り口近くにはポスターが貼られ、最新の漫画やフィギュアが並んでいる。
僕は1階の漫画コーナーを通り過ぎ、階段近くの文庫コーナーへと向かった。

文庫コーナーは狭いスペースにぎっしりと本が詰まっている。様々なジャンルの本が所狭しと並んでいるのを見て、少し胸が高鳴る。
この店に来たのは初めてだ。ここの存在は前から知っていたが、この街に寄ることはほとんどなかった。
今朝読みかけの小説を読破したことで、目星をつけていた新しい本屋に向かおうと、ここに寄ってみた。

「文庫コーナー」と書かれたもうひとつの棚に目をやると、そこに並んでいたのは本ではなく、なぜかCDだった。
しかも、アニメソングや同人CDがほとんどで、あちこちに隙間ができている。棚に無造作に突っ込まれたそれらを見て、僕は首を傾げた。

「文庫棚にCDが置いてあるのはおかしいよな…」口には出さなかったが、店側のミスだろうか。新人スタッフが棚を間違えたのか。こんな雑な陳列は見たことがない。

僕は棚に並ぶCDの一枚を手に取った。ジャケットには飛び上がったクジラの水しぶきのような派手さのバラとドクロとレモンが描かれている。
指でCDケースを開け、中を覗くと、中には歌詞カードと共に、意外に分厚い説明書が入っていた。

「もしかして、これを文庫扱いにしてるのか?」

そう呟きながら説明書をめくってみる。確かに、単なる歌詞カードではなく、インタビューや制作エピソード、アーティストのイラストまで盛り込まれている。
下手な短編小説よりも充実している内容だ。文章量だけを見れば、確かに「文庫」として成立するかもしれない。

ふと、僕の脳裏に昔読んだ一冊の文庫本が浮かんだ。
その本も一見すると普通の小説だが、内容はエッセイや詩、短編小説が入り混じっていて、当時は「これは本当に小説なのか?」と疑問に思ったものだ。
けれど、読んでいくうちにその本の多様性が魅力に感じられた。形や形式にとらわれない自由な表現が、逆に一冊の本としての価値を高めていた。

「文庫だな」

僕はおかしな納得感を覚えながら、CDを棚に戻した。

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