研究所に入った泥棒

ショートショート

 ハナバナ研究所に両手に収まらないほどの金が運び込まれた。
 研究で使うためのものらしいが、田舎にある研究所の珍しい話はすぐに近くに住む人たちに広まってしまった。
 次郎はその研究所に真夜中忍び込んだ。
 彼は賭け事に熱中する質で、借金まみれだった。10本の指が揃ってない手をした連中からもお金を借りる始末だった。
 「それにしても汚い部屋だな」
 次郎は、道具を使い音を立てずに窓を破壊した。
 窓はクレセント錠のついたシンプルなもので鉄格子などの細工の一つもなかった。
 研究所に簡単に入れた。
 懐中電灯で照らしながら、目当ての金を探し歩いた。
 カチッ
 足元で何かを踏んだ感覚があった。「遺跡の宝を守るためのトラップ」というワードが頭に浮かんだ。
 「まずいっ」次郎は慌てて周りを確認する。
 「げほっげほっ」後ろを振り向いたとき煙が噴き出してきた。慌てた次郎は煙とは逆方向に飛びのいた。
 カチッ
 壁に肘がぶつかったとき、またもやボタンを押す感覚があった。
 「冷たっ!」今度は次郎の周りに冷気が発生した。懐中電灯が持つことができないほど手が冷たくなり、光源のそれを落としてしまった。
 「くそっなんだってんだ」
 懐中電灯を拾い上げ、電源を入れ直す。だが、壊れてしまったのか明かりがつかない。
 次郎はとにかく冷気の発生場所からできるだけ離れた。
 悪さをする時のカートゥーンキャラクターのような足取りで慎重に移動を始める。
 明かりがなくなったしまったが何とか研究所の奥まで来ることができた。
 その頃には暗闇にも目が慣れてきて、少しだけ周りの様子がわかるようになった。
 「金だ。やっとみつけた!」次郎は飛び上がるほどうれしくなり、周りの機械にぶつかりながらも金の置かれたテーブルに走った。
 カチッ
 なにかを踏んだ感触と同時に冷や汗。「やばいしくじったか?」

 40分後、通報装置が発動し研究所には警官が集まっていた。
 警部は所内に怪しい人物がいないか探すが、見当たらない。通報装置の誤作動かと、ため息をこぼした。
 それにしても、ともう一度首をまわす。周りにある機械やら道具は何に使うか全く見当もつかない。
 特にこれは「趣味の悪い像だな」
 そこには成人男性くらいの金ぴかの像が置いてあるだけだった。

タイトルとURLをコピーしました