この国では、すべての決定が「即決法」に基づいて行われる。
即決法とは、議会に持ち込まれたすべての問題を、わずか一分以内に解決しなければならない法律だ。
理屈や細かい議論は時間の無駄とされ、直感的に「良いか悪いか」を判断するのがこの国の方針であった。
学歴だけは立派な議員たちは直感に従って、その場で賛成か反対かを決める。
即決法は極端な善悪はつきにくい。
なぜなら、生理的に受け入れられないと判断された提案は、自然と反対多数になり否決されるため、極端な独裁的なアイデアがまかり通ることはない。議員たちは、安全圏の中で瞬時の判断を下す。
今日もまた、議会が開かれている。議員たちはみな、スポンサーのいないクイズ系配信者のようにボタンを片手に持ち椅子に座って待機している。
賛成か反対か、どちらのボタンを押すか、それだけが彼らの仕事だった。
「本日の議題です。まず最初の提案は、『囚人たちの労働環境の改善』についてです__」
「続いての議題です。こちらの提案は、『教育予算の大幅な増加』についてです__」
議長が淡々とした口調で言うと、スクリーンに動画が映し出された。議題の趣旨が映像とともに説明され、最後に賛成か反対かの二択で選べる選択肢が提案される。
映像が終え、議場に静けさが訪れる。議員たちは映像が止まったあと一分以内にボタンを押す。こうして、議題はテンポよく今日のノルマ分をこなしていく。
ボタンを押さなかったものは、時間切れのゲームプレイヤーのように議員の職を追われる。ゆえに皆、映像を真剣に見て直感と持ち前の頭脳で判断を下す。居眠りをする者など一人もいなかった。
「本日最後の議題です。『学校教育の多様化と学力向上の実験的アプローチ』についてです」
映像が流れる。学校の教室が映し出され『トランポリン教室』という文字がバカげたフォントで映し出された。議場がどっとざわめいた。
「……トランポリン教室?」映像の中で校長と思わしき男が呆れたように繰り返した。「それは一体どういう意味ですか?」
「簡単です。子どもたちが学ぶ環境をもっと楽しいものにするべきです。座ってばかりでは頭が回りませんからね。跳びはねながら学ぶことで、体も頭も活性化されるでしょう!」
五分程度の映像が終わった。笑い声が響く中、議長は一つ咳ばらいをして冷静を保とうとする。
「では、賛成か反対かをボタンで示してください」議長が言い終わると同時に、議員たちはそれぞれのボタンに手を伸ばした。
結果がスクリーンに映し出される。
「賛成多数……」
議場が一瞬、静寂に包まれたが、すぐに笑い声が広がった。隣同士で議員たちが談笑し始める。
今日もこの国ではバカバカしい法律が生まれていく。