「なあ、ちょっと寄っていこうぜ」
友人が、にやりと笑いながら指をさす。僕らは昨日から2泊3日の旅行に来ていた。早めに夕食を取ったせいで、小腹が空いていた。俺たちはホテルに帰る途中にあったデパートの地下に寄ることにした。
彼が指さすのは、カーテンとのれんの中間のような仕切りの入り口。おにぎりやお菓子の入った袋が邪魔だと思ったが、いいよの一言で俺はその仕切りをくぐった。
肌色とパステルピンクが目につくその部屋は成人向けコーナーだ。もちろん理解していたし、旅行先でこの手の店を見つけると、ついフラッと立ち寄るのが俺たちの流儀だった。
友人は棚にならんだ、布一つまとわない女性とセンスのかけらもないタイトルのパッケージを手に取っていた。
俺は、入り口近くにあるイメージビデオの棚からゆっくりと眺める。
「なあ、見てみろよ」
友人は、ご立派なアイテムが並んでいるグッズコーナーから一つを手に取り、俺に見せつけてくる。
「使わないだろ。おい、痛そうな握り方するな」
ふざけた会話をしながら別の棚に移ると、棚の隅に置かれたある物を見つけた。小さな箱に入った、それは可愛らしい花束のようだった。
「おい、これ見ろよ。『ソープフラワー』だってさ」
友人は俺が指差したものに目をやった。『ソープフラワー』と書かれた商品が並んでいる。
「これも18禁グッズの一種なのか?」小声で友人に囁くように尋ねた。
AVの置かれた棚の真後ろにあったそれを、俺はいかがわしいジョークグッズの一種だと思ったからだ。
「いやいや、そんなわけないだろ。さすがに花を使ってどうこうするようなものは……」
俺よりも成人向けコンテンツに詳しい友人は、眉をひそめながらその商品をじっと眺める。
「ソープって石鹸のことだったよな?」
「ああ。においも石鹸って感じがする」
「石鹸で作られた花ってことなんじゃないか」
「でも、ソープランドって言葉もあるしな……」
「いや、さすがにこれはただのフレグランスとかそういう類だろう」
「でもさ、こんな場所に置くか?」
頭をひねるより、検索したほうが手っ取り早いということになり、スマホを取り出して「ソープフラワー」と打ち込む。ソーと入力した時点で予測変換に「ソープランド」と表示されたが無視した。
検索結果。石鹸でできた花の形をしたフレグランス。香りを楽しむためのものだった。
友人に説明しながら、俺は思う。場所が悪いよ、場所が。