カエルの裏面を毎日眺める。
コンビニ弁当をぶら下げて、僕はアパートに帰宅した。最近は、また少し弁当が高くなった。追加でおにぎりを買うか悩んで、やっぱり買えばよかったと
靴を脱ぎながら思った。
弁当を電子レンジに入れる。温めにかかる5分間で、僕は窓に張り付いたカエルを観察する。
カエルが張り付いている事に気が付いたのはひと月前のことだった。仕事を終えたこの時間に何気なく窓に目を向けたのがきっかけだった。
顔を見たことがないこのカエルはいつも張り付いているのかもしれない。だが、リビングにある窓を見る機会はこの時間にしかなかった。だから、カエルがいつもいるのかまでは知らない。
カエルは全然動かない。窓越しにデコピンをしても無反応。吸着性の感じる皮膚と呼吸の動きが生命としての反応を感じる。
こんなところでじっと待って餌が取れるのだろうか。ここは二階だが一階のほうが餌が取れるのではないか。最近雨が降っていないような気がするが、カエルは雨が降らなくても生きていけるのだったか。
頭に浮かぶ疑問はチンッという音と、食欲をそそる香りで消えていく。害があるわけではない。ましてや外にいるカエルに使える時間なんてこの程度だった。
引っ越しを考えていた。
もっと仕事場に近いところに住みたいと、貯金とやる気に相談して活動し始めたのがひと月前。もうすぐこのアパートともお別れだ。
窓に映る、顔を知らない顔見知りのカエルは相変わらずだった。最初に見た位置よりは20㎝は移動していた。
ふた月以上ここに住み着いてるということは、なかなかの優良物件なのだろうと僕は思った。なんだかこのアパートを引っ越すのが惜しいとまで感じる。
いやいや、待て待て、考え直せ。住み慣れた場所というだけで対して良い物件ではなかったではないか。
エアコンは古いし、近所の親父はうるさいし、なによりもユニットバスは長いこと生活するには苦痛だった。
あれから数週間と経ち、退去日になった。
久しぶりに訪れたアパートで最後の手続きを済ませた。
手提げを背負い、靴を履こうとして手が止まった。そういえば、と僕は声を漏らす。誰に聞かせるでもない声は、物がない部屋で思いのほか反響した。
リビングの窓に目を向けた。カエルは見当たらなかった。