「飲みたいなー」
その友人の一言は僕も賛成だった。
友人と二人で旅行に来て2日目の夜、適当なところで酒を飲むことにした。
銀だこが目に留まったのでそこへ入る。
銀だこは、たこ焼きを売っている屋台のようなイメージだったので店を構えているのにまず驚き、目についたのだ。
お店のなかは、小さいテーブル席が5つ並んでいて、壁にはメニューが張られている。ザ・居酒屋という感じ。
厨房に一番近い席に座って、とりあえずのビールを頼みつつ、
たこ焼き、フライドポテト、焼きそば……。屋台で売ってそうなメニューをつまみに頼んだ。
「それでね、部長の話からおかしくなったと思うんだよねー!!」
「会議はねー、時間かかるよね」
2つ後ろの席に座るカップルの声がやたら大きいことが気になった。
酔いが回ってきたのだろう。会社の愚痴を女性が語りそれに一言添える男性といった会話が続けられている。
女性の声が時間とともに大きくなっていくと、それにつられて彼氏の方も少しずつ声を張るようになっていった。
たこ焼きを頬張りながら、声のボリュームが壊れていく会話を楽しんでいた。
「なんか、あれもさー!! めんどくさい!」
「もっと効率よくできそうなのにね!!」
うるさいとは思うレベルまでに進化したが、まあ飲み屋の席で、このお店は個室でもない。
よくあることさ、と頭の片隅に追いやって友人に後ろの席の様子について話した。
「愚痴言いたくなるよね!!」
友人のボリュームも壊れ始めていたことにびっくりした。
さらに楽しい旅の感想を言い合っていると、後ろの席の人たちに合わせるように声がでかくなる。
対面で小さなテーブルに座っているため声を張る必要は全くないのに。
2階から声かけているのか?と思うような大きな声になっていった。
まあ、いいかと思い、店員さんにお冷を注文する。
「かしこまりましたーー!!!」
店員さんが一番声が大きかった。