20××年。地球上では人類は滅亡していて、過去に人類が作り出したアンドロイドだけが生きている世界になっていました。
アンドロイドは人間に近い存在でしたが、夢を見ることがありません。
そもそも眠る必要がないため、夢というのは知識として学習しただけの存在でした。
とある国である日、夢を見ることができるガジェットが開発されました。
それはヘッドホン型の装置で、耳に装着し目を瞑ると作動し、睡眠の疑似体験と夢を見ることができるという謳い文句で発売されました。
そのヘッドホンは発売と同時にベストセラーになるほど売れました。
アンドロイドたちにとって実体験をするということは、何物よりも価値のあるものだったのです。
アンドロイドのNN893もヘッドホンを買ったひとりでした。
彼は多くのアンドロイドと同じく人間にあこがれを持っていたため、この人間の持つ性質を体験できるヘッドホンに興味津々でした。
さっそく彼は自室でヘッドホンを装着して、瞼を閉じました。
夢の中で彼は、知識の中に存在するもっとも顔立ちの整った人間の姿になっていました。
人の姿の彼は長い螺旋階段をゆっくりと降りていました。階段の終わりには扉があり、彼は迷わず開きました。
そこは六畳間小さな部屋で一人の人間が部屋の中央に立っていました。
人間に近寄ってみると自分の両手がその男の首をつかみ力いっぱい締め上げました。
男は力を失い完全に動かなくなるとNN893は夢から覚めました。
「なんて事をしてしまったんだ」
彼は目覚めると同時に自責の念に駆られました。
よろよろとした足取りで自室の窓へ向かうとそのまま飛び降りてしまいました。
耳にはヘッドホンがついたままです。
発売して、ひと月で夢を見れるヘッドホンは大きな問題となっていました。
アンドロイドたちが異常な行動をとってしまう原因となっていたからです。
アンドロイドは夢と現実の区別をつけることができず、夢で見た内容によって異常な行動をしてしまうとこの装置は販売停止になりました。