「自尊心自販機?」
男は公園にある自販機が異様さに足を止めました。
自販機には
『内側からくる自己肯定感が大切! 自分を受け入れ、自信を持つことができるようになるドリンクはいかがですか。自尊心自販機』
とダサいフォントの太字で書かれていました。
男は胡散臭さと、安い自己啓発の謳い文句のようなそれに寒気をおぼえますが、ちょっぴりの好奇心と今時一本100円という安さに惹かれコインを入れました。
しかし出てきたのは、容器が周りを反射するように出来ている、鏡の役割を持たせた容器の缶ジュースでした。
「これで自分自身を見つめ直せってことね」
男はすぐに察し、すこしがっかりしましたが、プルタブを開け中の飲み物を喉に流し込みました。
それは安っぽいジンジャエールのような味で喉が辛くなりました。
「業務スーパーの一番安い缶ジュースの味がする」
男は飲み干した缶の鏡を見ました。
そこに映る自分は顔立ちが整った、誰が見てもイケメンだと思う顔になっていました。
「俺はこんなイケてる顔してたか?」
男はかっこよくなったように見える自分に不思議と深く疑問を持つことはありませんでした。
「これなら大丈夫」
自分を鼓舞する言葉を呟くと、男はコンビニに入りました。
そこには、いつもこの時間にコンビニで働く女性がいました。男はゆっくりと深呼吸をします。
それから、彼女に声を掛けました。他愛もない話です。3分にも満たないやりとりでしたが男は、女性と話をできたことに満足しました。
次の週も男は自尊心自販機でジュースを買い、コンビニへ向かいました。コンビニでは店員さんと短い話をしました。
彼にとってそれが当たり前の日常になったころ、自尊心自販機は撤去されていました。
彼は残念に思いましたが、別の自販機でジンジャエールを買い、一気に飲み干すとコンビニへ向かいました。
「よしっ」
コンビニの前で深呼吸を一つして男は店内へ入り、いつものように挨拶をかわします。
「こんなところに新しい自販機ができてるー」
「今時100円だってよ。なんだこのダサいキャッチコピーは?」
ある日の別の公園で、二人の幼馴染は自販機を見つけました。