ホットな科学放送

ショートショート

僕はラジオの電源を入れた。
火曜日のこの時間にしか、ラジオは聞かないのでチャンネルの切り替えは必要なかった。

「今週もはじまりました。おもしろサイエンティック第89回!今日も聞いて学べる科学知識を楽しく紹介します」

おもしろサイエンティックは、最新の科学知識を専門家を招いて紹介する番組だ。
そういえば、タイトルのサイエンティックとはなんだろうか?
サイエンティフィックの間違いなんじゃないか、と考えてしまう。

「今回のゲストは生物学者のさなぎ先生です。よろしくお願いします」

「はい、よろしくね」

ゲストの紹介の後、今回の研究の説明がされた。

なんでも、脳には身体を安全な範囲で使うためにリミッターがついているらしく、そのリミッターを外すことで本来の人間の筋肉や細胞が持つ力を使えるようになる薬ということだった。

災害のレスキューに使われたり、体の不自由な人に投与することで動かない部位を動くようにする働きが期待できるとのこと。

まだ開発途中であるということもあり、大きな課題が残っているそうだ。

一つはリミッターが外れてしまうと、攻撃的な人間に変わってしまうとのこと。
もう一つは液体ではあるものの、空気に触れるとゆっくりと気体となり、それを吸っただけで効果が
出てしまうほど強力な薬であるとのことだった。

現在は危険でしかない薬でも、今後は医療や災害現場で大活躍すること間違いなしのホットな科学知識だった。

「これがその薬のNB‐TXです」

「薄い桜色といった感じの液体ですね」

どうやら放送ブースに実物の薬があってそれを説明しているようだった。

密閉性の高い容器に入れているとのことだったが、よくラジオ一つのために持ってきてくれたものだ。

「あはは!」

「「あっ」」

薬の紹介が終わり、別の話題で盛り上がっていると二人の驚きの声とともにパリンと何かが割れた音がした。

小さな声で「あっまずい」と聞こえる。ブースががやがやとした雑音に包まれた。

うめき声に、機械の壊れる音、放送できないような罵詈雑言が流れている。

「これ漏れたな」

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