夕暮れにカラスが鳴いた。
雄二はびくっと体を震わせ、今の状況に冷静さを取り戻していた。自分たちは悪いことをしようとしている。
本当にこのまま行動してもいいんだろうか。雄二は誰かに確認しなくちゃ気が済まなくなった。
「ねえ、本当に入っていいの?」
半歩後ろについてくる小学4年生にしては大柄な太郎に声をかけた。
「心配ないって、俺たちは一度ここ入ったことあるんだから、なあ?」
「ああ、それに見つかったとしても今は暗いから顔さえ見られなければ問題ねーよ」
太郎に続いて翼が、この薄気味悪い館に入ることを後押しする。
小学生の中ではカラス館と呼ばれていて特に彼らの所属するのクラスではこの話がトレンドだった。
肝試し、度胸試しのためにつかえるというだけなのだが、この館に入って帰ってくることはクラスで称賛される雄二たちはそのために今日ここに訪れた。
玄関から靴を脱がずに入ると、最初にキッチンへと入っていった。
照明のスイッチを押してみたが、やはり明かりがつくことは無かった。
雄二は太郎の後ろをついていくように歩いた。翼はすでに二階へ向かったみたいだった。
「つまらないな。何もないじゃん」
一階の部屋を一通り見て太郎は呟いた。雄二は何もないことにむしろほっとした。
お化けや虫が出てきたら嫌だったからだ。
二階へ行くと寝室があった。家では見れないほど大きなベッドに雄二は飛び込んでみたくなり、ベッドに向って勢いをつけて飛び込んだ。
「ごほっごほっ」
埃まみれのベッドに飛び込んだため、雄二は咳きこんでしまった。服の埃を払う。
「あれ?」
手で服を払っていると黒い油のようなものが手についた。払った場所を見てみると、そこにも汚れがついている。
雄二はまずいと思った。
このまま帰ると親に事情を聞かれて、叱られる危険がある。雄二は太郎と一緒にキッチンに戻ることにした。
キッチンで汚れをぬぐえそうな布を捜す。さっきまで隣にいた太郎が、離れたところで飛び跳ねていた。
「なにしてるの?」
「ブレーカー上げようと思ってっ!」
そう言いながら跳ねるのをやめない太郎を無視して、雄二は台所の蛇口を試しにひねってみることにした。
水がシンクを叩くように流れる。
雄二はよかった、と服の汚れている部分をこすりながら水に流す。
「どうして水がでたんだろう?」
雄二は違和感を感じた。
水道が使えるのはおかしいのではないか、だってここには人が住んでいないんだから。
雄二が疑問に気付いたと同時に太郎が飛び跳ねる音がいつの間にかしていないことにも気が付いた。
太郎のいた方に目を向ける。
雄二は一人になっていた。