しんかんせん

ショートショート

「2日もいれば馴れてくるものだな」

一昨日、出張で大阪に向かうために乗り込んだ新幹線が原因不明のトラブルにより制御できなくなった。

どこを目指すでもなくこの電車は走り続けている。暴走してはいるもののスピードは150㎞をキープしている。

窓から飛び込めばと考える者もいるが誰も怖くて実行はしない。

生きている時間をむやみに短くしたくないのだ。それかまだ助かるという楽天思考なのかもしれない。

幸い、乗客は少なく、食糧の蓄えは十分にあり、あと3,4日は持つだろう。5月なので多少夜は肌寒いものの気温に牙をむかれる心配もない。

初日はたいへんだった。
パニックになった者たちが、責任者は誰だ、どうしてこんな目に遭うんだとかカロリーの無駄な行動があちこちで見られた。
今は誰もそんなことは口に出さなくなった。近くの人と雑談する者さえいる。慣れというのはすごい機能だと実感した。

外部とのやりとりができないわけじゃないので電車の外では緊急で対策をしてくれているのだろう。だがハッピーエンドの未来はみえない。

線路は続くが同じ場所を繰り返すだけだ。どこまでも、いつまでも。決められたレールの上で結末は見えている。
それが明日なのかそれとも目前に迫っているのか。知ることはできないがそんなことはどうでもよかった。

スマフォのカメラで自分を見る。いつもこびりついたように目の下にあったクマがなくなっていた。
久しぶりにぐっすり寝ることのできた。怒鳴られることの確定していた出張も行かなくて済んだ。

「こんなに気持ちいい天気はいつ以来だろう」

少しだけ開けていた窓を全開にして、出張用のバッグを外へ放り込む。安物のバッグは地面についた瞬間中身を勢いよくぶちまけた。
やっと自由になれた気がした。

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