「私は魂ではなく自尊心を刈る仕事をしているものです」
ある日、死神を名乗る男が言いました。
彼の仕事は上司に指示された人間にと直接会って、肥大化しすぎた自尊心を刈り取り、専用のケースに回収する。
そうすることで、適切で健康な魂を保つ仕事だといいます。
「人の魂はバランスが崩れやすく、砂の城のように簡単に壊れしまう。完全に壊れてしまうとその魂は、魂としての質が低くなる。
なので、壊れそうな魂には私のような死神が現われてその不具合を治しに来ます。魂のメンテナンスをするんですよ」
死神の目の前に立っていた俺様は、死神の言葉に耳を貸してやっていると、油断をしたその一瞬、
気付かないうちに彼の手に握られていた巨大な鎌で、自尊心を一部刈り取られ気を失ってしまいました。
「自尊心もとれたし、OK、OK。さあ帰ろうっと」
死神は倒れている男を一切見ないで、切り取った朱色の塊のようなものを見ると、ケースに乱暴に入れてさっさと姿を消してしまいました。
この死神にはそんな仕事に対する適当さがありました。
男は目を覚ますと、自分が少しの時間寝ていたことに気付き、慌てて机に向かいました。
男は会社員でしたが趣味で漫画を描いていました。机に座ると彼は、途中になっていた漫画を描き上げようとしました。
「…………今日はいいかな」
しかし、机に座ったものの描く気持ちがわいてきません。少し手を動かして男は描くことをやめてしまいました。
一方その頃、会社に戻った死神は上司にこっぴどく怒られていました。
「毎回言ってる気がするが……刈りすぎるなと言っているだろう! ちゃんと確認しろっ」
「すいません」
上司が指を差す先にあるモニターにはやる気なくソファでボーっとしている先ほどの男が映っていました。
「自分で自分を認めてやる心がないと、何かをやろうとする意欲も弱まってしまうんだ。
どうせ俺がやってもできないだろうとか、途中でやめてしまうからやってもしょうがないとか。
やらない言い訳が先に出てしまうんだよ。特に仕事じゃなく趣味でなにかをやる連中はな」
上司は「さっさと返してこい」と魂の入ったケースを指差し、死神の部下に命令すると死神は一目散に男のもとへ向かいました。