puppet&seek

ショートショート

人型のぬいぐるみを使った降霊術がある。

puppet&seekと呼ばれる外国で10年ほど前、流行ったものだ。

オカルト情報をやりとりする掲示板を毎日眺めることが習慣になるほど、そういった話が好きな俺は
一人でもできるその降霊術を試してみることにした。

必要なのは人型のぬいぐるみで新品ではないもの。

ぬいぐるみの背中を切って、自分(生きた人間なら俺自身のものじゃなくてもいいらしいが)の髪の毛を入れて、きちんと縫い直す。

ぬいぐるみを玄関から一番遠い部屋に置きに行って、包丁などの刃のあるものでぬいぐるみを三度刺す。

次に目を瞑り、ぬいぐるみに向かって三回「Come in」と唱える。

部屋の明かりをすべて消して、隠れられそうところ(押し入れなど)身を潜め、日が昇るまでそこで過ごす。

すると人形は独りでに動き出し、その部屋だけをさまよいだす。

見つかってしまうと殺されてしまう。

日が昇ってから、部屋を確認しに行くと霊は帰っていて、人形だけが残っている。

そんな内容だ。

人形が動くのを直接見ることはできないが、カメラを設置して人形が動く映像が収められたり、隠れていると物音がするともっぱら噂。

俺は早速、カメラを用意した。2LDKのマンションに住んでいるため、すべての部屋分用意するのに結構お金がかかった。

全部屋にカメラを用意した理由はpuppet&seekをやっている動画をのちに動画サイトであげようと考えていたからだった。

puppet&seekは日本でも外国でも一部の人間に人気があり、再生数をかなり見込める。俺はそう考えて、お金を賭けることを決めた。

カメラの設置も完了し、人形を玄関から一番遠い部屋の隅に置く。

人形の中に髪の毛も入れたし、この部屋とは別の部屋の押し入れに一晩過ごす準備も完璧だった。

包丁で人形を三度刺し、「Come in」と唱える。

部屋の明かりを消していき、俺は押し入れへ身を隠した。

押し入れには3台の小型モニターを準備した。

今いる部屋を含め、各部屋の天井からつるしたカメラからの映像を映し出している。

カメラは暗い中でも部屋の様子を見れる、高性能のものにした。映像の映りは問題なさそうだ。

飲み物も準備したし、最悪寝てもいい。動画はあとで確認すればいいことだし。

全ての明かりを消して1時間もしないうちに、人形に動きがあった。

明らかに宙に浮いて、首を何度も左右に動かしている。

ゆっくりと手足を動かして、身体が動くことを確認しているようだった。

俺は恐怖と喜びが入り混じった感情で声を抑えて笑った。

人形が本当に動き出した怖さと動画としての価値ができたことへの嬉しさが入り混じっていた。

人形は部屋を物色するように動き出す。

あっちこっちへ移動して、すっと部屋のドアを開けてしまった。

その時点で俺から喜びの感情が消えていた。ただ恐怖だけだった。

puppet&seekでは人形は一つの部屋から出ることはないはずだった。

それなのにこの人形は平然と部屋のドアを開けた。

部屋を出た人形はキッチンに移動していた。

よく見ると人形の手には別の人形が握られている。

降霊術をおこなった部屋に置いておいた、予備の人形の一体だった。

人形はキッチンの床に手に握っていた人形を置くと、床をなめまわすように首を動かして何かを拾った。

キッチンから包丁を拾い上げ、床の人形の背中を引き裂く。

切れ目のできた背中に手を突っ込んで、人形は床の人形と包丁を持って、降霊術をおこなった部屋へと戻っていった。

俺はこの後の人形の行動が予想できた。予想できたからこそ足が震え、寒気もしないのに身体が痙攣したような反応を起こした。

人形が別の人形に降霊術を行おうとしていた。

霊が霊を呼び出すなんてできるのか疑問だったが、人形の迷いのない行動に現実を受け入れるしかなかった。

そして一番問題なのは、あの部屋にはまだ予備として用意した人形がたくさん残っている事だった。

予想は当たってしまった。

人形は人形を部屋の隅に置いて包丁で刺した。

刺した人形を放置し、別の人形を一体取り出して、またキッチンへ向かっていった。

あとはこの行動を繰り返し。

1時間後には10体の人形が動き出し、各部屋を物色し始めていた。

俺はモニターを見ることも怖くなり、目を瞑っていた。

喉がすごく乾いていたが、水を飲む気力さえなかった。

日の出にはまだ3時間以上ある。

「見つかったら殺される」降霊術の最後の一文が脳を支配していた。

押し入れの外には確実に人形がいた。物色する音が聞こえる。

スーッ

引き戸がゆっくり開けられる音がした。小さな音のはずなのに今は落ち着かない心臓の音よりも大きく響いた。

目を開ける。人形と目が合った。

キッチンのテーブルにはごはんにジャガイモとわかめの味噌汁、焼き鮭、あとはよくわからないが小鉢が並んでいた。

こんな豪華な朝飯は高校の修学旅行以来だろうか。

あたりを見回すと、ほこり一つなく掃除が行き届いている。一人暮らしの俺の家ではないみたいだ。

「いただきます」

手を合わせ、まわりでせっせと家事をする。人形たちに俺をいった。
あの夜、人形に見つかったが殺されることはなかったし、朝になって霊が帰ることもなかった。

人形たちはこの部屋で共に過ごすようになり、俺の身の回りのことをしてくれたり、各々の活動を楽しんでいる。

「この状況は……バズるな」

俺はそう思いながら、味噌汁をすすった。

タイトルとURLをコピーしました