依頼人が私の探偵事務所に入ってきた。
彼は立派な髭を生やし、太った体つきの初老の男性だった。
まず、私は彼をソファに促し、緑茶を差し出した。
「何か重大な出来事に巻き込まれたのではないでしょうか?」
「どうしてそれを?」
「あなたが強く握りしめている新聞を見ればわかります。その新聞は昨夜のものだ。何かそこに自分と関わりのあることが書いてあり、どうすればいいかを一晩考えたのではないですか?」
「当たっています。昨夜考え、町で噂のこの探偵事務所に相談してみようと決めたんです。さすが探偵さんだ! じつは__」
「私の推理力を駆使して、あなたの相談を当てて見せましょう」
依頼人を手で制し、私は滔々としゃべり始める。
「あなたの髭の様子から察するに、最近の出来事があなたを不安にさせていることが見受けられます。
おそらく、何かしらの陰謀や秘密が絡んでいるのではないかと。
その新聞の記事にその不安要素が表に出る可能性が載っていた。汚れた大金の絡んだ話ですね。違いますか」
「違います。 ……髭の様子ってなんですか?」
「そんな立派な髭は金持ちしかしません。立派な髭の金持ちは汚い事業で私腹を肥やすものです」
「そんなことないでしょう」
ゴホンッ
私は一つ咳払い。
「太った体つきから察するに、おそらく最近は運動不足であり、何かしらの食べ物に悩まされているのです」
「私の体系は関係ありません。あなた結構失礼ですね」
「さらに、あなたの服の裾に付いた泥や埃、そして一部が損傷していることから察するに、
あなたは最近になって危険な場所に身を置き、何か危険な取引や調査を行っていたのではないでしょうか?」
「ああ、これはガードレールつい触る癖があって、今回のことと関係ありません」
「……いまだに新聞をとっている。それはまわりと常識を共有したい欲。さらに言うなら常に人からの評価が気になって、誰からも嫌われたくないと心では思っているのでは」
「そんなことはないですし、それも事件に関係ないです」
「甘えられないし、わがままも言えないし、助けも求められない自分の思いを抑圧している。
人に頼るのが苦手で、気を使いすぎて疲れる傾向にある」
「ライトな心理学の本ですか! 占いに来てるんじゃないんです」
「えー。あなたの目から見て取れる焦りと興奮、そして体の状態から察するに、あなたは決して日常的な事件ではなく、何か巨大な陰謀や複雑な謎に巻き込まれているのだと確信しております。
そう!! あなたが抱えている事件の背後には、「シルバー・シャドウ」と呼ばれる今話題の巧妙な犯罪組織が関与しているのですね。」
「全然違います」
「…………」
「帰ります」
「はい」