「ほら、さっさと起きなさい!」
一気に冷たい空気を感じた。ぼやけた頭で今の状態を確認する。
窓が開いてる、目の前の女性が掛け布団をもってこちらをにらんでいる。
「母さん、今から買い物に行ってくるから。台所に置いてある、朝食食べちゃいなさい」
「あーうん。わかったよ」そうだ、母親だ。寝ぼけているな。時計を見ると8時20分。
僕は朝食がある1階へ移動した。
台所にある食事を運ぼうとすると、お盆に「昨日あなたの置きっぱなししたメモよ」と書かれた紙がおいてあるのを見つけた。
そこには、今日一日の時間ごとのスケジュールが書いてあった。
僕は食事をを済ませ、その紙通りに一日を過ごした。そうしてきた気がしたため紙通りに従うことに違和感はなかった。
夕食を済ませると、母さんはテーブルに錠剤を一粒置いた。
「これ忘れているわよ」
じっとそのどこか覚えのある赤と白の錠剤をみつめる
「これ何の薬だっけ?」
母さんはあきれたようにため息をして告げた。
「胃の調整をする薬よ。この間胃が痛いっていうから、病院に一緒に行ったじゃない」
母さんは処方した際の薬の説明書をテーブルに置いた。
「ああ」
そうだったか。全然覚えていないが確かに夜に一錠飲むようにかいてある。
僕は錠剤を口に入れ、コップに半分ほど残っていた水を一気に飲んだ。
「今日は本当にぼけーとしてるわね。熱でもあるんじゃないの?」
「いや、大丈夫だと思う。調子が悪いわけじゃないから」
「じゃあ疲れがたまっているのね。今日は早く寝たほうがいいわ」
「……うん」
たしかに疲れているのかもしれない。
今ちゃんと返事をしただろうか。眠気が一気に押し寄せてきた。
「ちょっと休憩」俺は部屋に戻らず、近くのソファに倒れるように横になる。
ボスっと小さく空気の抜ける音とともに体がソファに沈んでいく。
ああ、このまま寝てしまいそうだ。瞼を閉じて体を脱力させる。
母さんは叱る様子もなく台所では食器を洗う音が聞こえる。
そういえば今日は何曜日だったんだろうか。というか今は何月の何日だろう。
テレビもカレンダーもないからわからなかったけど。
あれ、なんでテレビもカレンダーもないんだろう……だめだ眠い。寝てしまおう。考えるのはそれからで……
「心肺安定しました。これで朝まで目を覚ましません。覚醒時間は午前8時20分です」
テーブルに座っていた女性の耳元からオペレーターの声が聞こえる。今日の実験は終了したことを告げた。
「了解。今日で何日たった?」
「今日で360日目です。もうすぐ予定の一年です」
「一年たったらこの子はどうなるの?」
「それは雇われただけのあなたが知る必要ないことです」
オペレーターの声は起伏がなく電子音より不気味だった。