「ユンバ、テーブル下まわりを掃除して。あと、炊飯器を起動して」
「かしこまりました。炊飯器を起動。1時間を目安にお米が炊きあがります」
自動お掃除ロボ・RX‐78ユンバがテーブル下へ向かって動き出した。
ピッ、という音が鳴り、炊飯器のボタンの一つが赤色に変わる。
ユンバはここ数年で劇的に進化した。
家にある家電を操作してくれる機能や、優れたAIアシスト機能により、楽しい雑談ができるようにもなった。
掃除機としての能力も良好。
僕は、高い買い物だったがそれだけの価値があったことに満足した。
ただ、少し気になる点もある。
「炊飯器といえば、お米は1時間以上水に浸しておくと、水分を吸ってお米がおいしく炊き上がります。
これは夏と冬では浸しておく時間が違うことをご存じでしたか。夏場の方が浸す時間が短くていいのです。これは気温により水分を吸収する速度が変わるためなんですね。
ただこれは白米の場合の話です。玄米となると吸収率がさらに落ちてしまいまして、4、5倍ほど多く、水に浸しておく必要があるそうです。例外的に、早炊き用の玄米という吸収率の高いものも開発されているそうですが……味はどうなんでしょうかね?
まあ、わたくしは家電なので味はわからないんですけどね。hahaha! そうそう玄米といえば、食物繊維にばかり注目されがちですが____」
テーブル下をせわしなく動きながら、ユンバの口もせわしなく動き続けている。いや、口はないか。
この掃除機はいつもこんな調子だった。指示した内容に合わせた雑学が止まらない。
しかもちょっと鼻につく。
「ユンバ。そんな話よりも、面白い話をしてよ」
人相手なら絶対やらない無茶ぶりをしてみた。おしゃべりなこいつがどんな反応をするか見ものだ。
「かしこまりました。これは私が高校生の頃の話です」
いや、そんな時代ないだろ。
「学生時代の私は、部活動に夢中でまわりの、流行りというのに疎い人間でした」
人間でもないだろ、とツッコミを入れるが人に合わせた適当な話を構築しているのだと、少し冷静になり聞くことに集中することにした。
僕はソファに腰を下ろす。
「休み時間、クラスで今もっとも面白いドラマはという話になり、クラス全員にアンケートが取られました。
私は今やっているドラマなんて一つも知りません。ですが、私は流行りに乗れていないと何か言われるんじゃないかと、邪推してしまいました」
暗く不穏な音楽が流れ始めた。ユンバがBGMを流しだして自分の話を盛り上げ始める。「こいつ……」
「どうもクラスで一番人気なのは『同郷ラジオジャーニー』というドラマでした。私にアンケートが向かう途中でその単語をよく耳にしたからです。そのたび『やっぱ王道よね』と話して盛り上がっていました。
私は考えます。このまま『同郷ラジオジャーニー』と言えばそれでこの場を切り抜けられますが、本当にそれでいいのかと。
私はつまらない女と思われたくない。そんなプライドが当時はありました」
女性設定だったのか。
「頭をフル回転させてここ最近目にしたり、耳にした単語を思い出します。なんとか『同郷ラジオジャーニー』以外のドラマを思い出そうと努力しました。頭をフル回転させました。そこで閃いたのです。これなら爆笑をかっさらうことができるのではないかというのを。
私は意を決して…………ゴホン。お知らせします。お米が炊き上がりました。」
そう言って、掃除も終えたゆんばが部屋の隅の定位置へと戻っていった。
「おい、話のオチは!?」