「そこのお嬢さん。一つ占っていかないかい?」
駅へ向かおうと脚を進める由美子は路地で女に話しかけられた。
小さなテーブルに水晶玉をのせ、薄紫のローブをかぶる、いかにもな見た目の占い師だった。
「お願いしようかしら」
由美子はテーブルの前に置かれた小さな椅子に腰かける。占い師はじっと由美子を見つめる。
「仕事について占おうかね」
「悩んでいることがわかるんですか」
「ええ、もちろん」
薄ら笑いを浮かべると仕事で上手くいっていないこと、後輩ばかりが優秀だと可愛がられ、嫉妬と自己嫌悪をしてしまうことを言い当てた。優れた占い師だと感じた由美子は、次にお金について占ってもらった。
「あなた借金をしているのね」
「ええ、まあ」
未来の金運を聞きたかったのだが、過去のことを掘られてしまった由美子はあてが外れてしまった
と思いつつも自分のことを話した。
「大学への借金も返せなくて、生活するお金を稼ぐので精一杯で。家族が小さいころに消えてしまったの」
「…………そうかい。お父さんは?」
「父とは小さいころに母と離婚して顔も覚えてないの。母は私が中学に上がるころに、私を置いてどこかに行ってしまったわ。それからは親戚の家を転々としながら過ごして。
そこで知ったんだけど、母は多額の借金を抱えていて首が回らなくなり、精神的に不安定になっていたみたい。
そんなの子供のころの私は分からなかった……今になってあの時の母の気持ちを理解できるようになるなんてね。
あーごめんなさい。話が脱線してしまったわ」
由美子は目に溜まった涙を人差し指ですくった。
「占い師さんにはなんでも話せてしまうわ。なんだか初めて会った気がしないの」
由美子の話をじっと聞いて、一言も喋らなかった占い師は震える唇を隠すように抑えていた。
「そんな…… 由美子なのかい?」「えっ!? どうしてそれを__」
「ごめんなさい、由美子」
由美子を言葉を遮り、占い師は自分が母親であることを告げた。
由美子は最初こそ戸惑いを見せたが、彼女の見せる後悔と喜びの表情をみて責めることはせず、彼女のこれまで人生について語ってもらった。
「占い師なのに自分のことを話してばかりね」
みるみる時間がたち、終電で帰るしかなくなるころになっていた。長い時間をかけて由美子は占い師の話を聞き続けた。
「もう帰らなくちゃ。また来るわ」
由美子は席を立とうと肩にかけた鞄のひもをかけ直す。占い師は強く決意に満ちたまなざしで、立ち去ろうとする由美子を呼び止めた。
「もうお金の心配はしなくていい。私が何とかするわ」涙を流しながら、由美子の手を強く握る。
「お母さん」「由美子……」
ピッ!
「このように詐欺の種類は増え、年々巧妙化しています。今回は占い師をターゲットにした詐欺を紹介しました。
自分は大丈夫だと決して過信しないようにしましょう。では続いてのニュースです__」