「では会議をおこなう。今回の議題は__」
会議室で8つの席、そのうちに座るひとりが話始める。
私は窓から見える位置に座っているため、外の景色を眺めてみた。すでに人がゾンビのようになって路上を埋め尽くしていた。
私の働く製薬会社が密かに研究を進めていたウイルスが、内部の者によってばらまかれてしまったらしい。
ウイルスは空気中では30分と持たずに感染能力を失うが、その間にウイルスを身体に取り込んでしまった人はゾンビのように理性を失い、他の人間に噛みつく行動を起こす(これを研究者たちはゾンビ化と呼んでいた)。
噛みつかれた人間は同じようにゾンビになって他の人に襲い掛かるため、彼らの表現は実に的を得ていたのかもしれない。
現在、オフィス内でウイルスに感染した社員が大勢いて、生存者はどれだけいるのかわからない状態に。
私は毎日ある、意味のあるのかわからない会議のために、会議室に集まったため感染を免れた。
初めて会議に意味のあった日になった。
ただ、会議に集中するためにも個人のスマホはデスクに置いていくことをルールにしていたため、現在のとれる選択肢は限られてしまっていた。
「ここからどうやって脱出するか」
部長が議題について深刻そうに呟いた。ここから生きて出るにはどうすればいいか、大きな問題があった。
それは、ここが地上30階にある会議室だということだ。あまりに地上から離れすぎていて飛び降りることもできない。
「そのドアの向こうには確実にゾンビがいますね」
「会議室を出たら即噛まれてゾンビになるな」
さっきからドンドンと理性を失った人間たちがドアを叩いている。あのドアの先はすでに地獄絵図になっているのだろう。
「意見のある者はいるか」
「幸いにこの部屋には電話があります」
「警察にはもう連絡したよ」
「知恵のある会社の者に連絡を取ってみてはどうでしょう」
議題は現状のゾンビを活動停止にする方法を知っている人物に連絡を取る、という意見に移っていった。
「研究責任者のながせ君に連絡を取ってみよう」
部長がながせ研究主任に電話をかけてみた。だが連絡がつかなかった。
「そもそも彼はウイルスのある研究室で寝泊まりするような人物です。ウイルスがばらまかれた今、ゾンビになっていない方がおかしいのでは」
「たしかにそうだな。くそっ、他の意見を出し合おう」
それから、数十分と時間がたつと新たな解決策がでた。同じフロアにいる生存者に連絡をとってドアの向こうのゾンビたちを倒してもらう作戦だった。
さっそくフロアのいる人物をリストアップした。リストに上がった人たちでゾンビにやられてなさそうな屈強な男性の須賀に、連絡をとってみることにした。
「くそっ出ないな。電話の近くにいないのか?」
部長が電話をかけるがでなかった。私は窓から同じフロアの廊下が見えるのでそちらを見る。「あっ」と驚いたと同時に部長に声をかけた。
「部長。あそこに須賀さんがいらっしゃいます」「なに!?」
「ゾンビになって、この部屋に向かって歩いてきます」
部長は中年男性とは思えない鋭い悲鳴を漏らした。
「どうする!?」「どうする!?」
今日も意見はまとまらない。