2024-09

ショートショート

未来の道具を落として

口を大きく開けて息を吐いてみる。まだ白い息は現れないかと、澄み渡る秋空の下で僕は思った。友人の慎太郎に連れられ、僕は遊園地でジェットコースターに乗るべく列に並んでいた。風が冷たいが、どこか穏やかな午後だった。「ジェットコースターなんて、久し...
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牛すじカレーinフードコート

普段の食事では、何を食べるかで迷うことは少ない。それは食べ物への興味がたいしてないことが原因だろう。そんな僕ですが、フードコートでは迷うことが多いです。言い訳をさせてください。フードコートはたくさんの選択肢が次々と現れて、どれもが魅力的に見...
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ジュブナイルの勘違い

小さい頃に見て微かに記憶に残っている作品っていうのは誰にでもあると思います。特に映画とかアニメのような映像で見たものは、強く印象に残りやすいのでしょう。でも、そういった作品に限ってタイトルが思い出せない。登場人物の顔も曖昧で、記憶に残ってい...
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篩の国

絶叫と、鈍い音――硬いスイカを叩き割るような音が響いた。隣の家の男が選別の対象になったらしい。この国では、誰もが定期的に「選別」を受ける可能性がある。選別は全市民を対象に行われ、その結果によって人生が決まる。選ばれた者は社会の上位層に進むこ...
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曖昧な値段

裏通りを歩いていると、見慣れない看板が目に飛び込んできた。その看板には、赤い文字で「50分 11(?),000円」と書かれていた。?の部分は剥がれたような跡があり、1の上の部分が消えていた。「1?000円…か。」僕は立ち止まり、しばらくその...
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たいきんで たかっとび

「こんばんは、先生。突然の訪問をお許しください」和久井は丁寧な口調で挨拶したが、その目は油断なく周囲を観察している。博士は少し驚いたようだが、すぐに微笑んで彼を招き入れた。「ようこそ。どうぞお入りください。確か、先日の学会の会場でお会いした...
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即決法

この国では、すべての決定が「即決法」に基づいて行われる。 即決法とは、議会に持ち込まれたすべての問題を、わずか一分以内に解決しなければならない法律だ。理屈や細かい議論は時間の無駄とされ、直感的に「良いか悪いか」を判断するのがこの国の方針であ...
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ソープフラワー

「なあ、ちょっと寄っていこうぜ」 友人が、にやりと笑いながら指をさす。僕らは昨日から2泊3日の旅行に来ていた。早めに夕食を取ったせいで、小腹が空いていた。俺たちはホテルに帰る途中にあったデパートの地下に寄ることにした。彼が指さすのは、カーテ...
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窓カエル

カエルの裏面を毎日眺める。 コンビニ弁当をぶら下げて、僕はアパートに帰宅した。最近は、また少し弁当が高くなった。追加でおにぎりを買うか悩んで、やっぱり買えばよかったと靴を脱ぎながら思った。 弁当を電子レンジに入れる。温めにかかる5分間で、僕...
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歯ごたえのないもやし

昼寝のつもりが、目を覚ましたときにはすでに19時を回っていた。薄暗くなった部屋の中、リモコンを探す。手元にそれはあった。 「明日は日曜日だし、別にいいか」と呟いて、体を伸ばす。肩や背中がパキパキと鳴り、若さのかけらもないあくびが洩れた。 空...