2024-01

ショートショート

味見検定

「今日は僕がビーフシチューをつくるよ」 そう宣言した彼は、冷蔵庫を開けて必要な食材を取り出した。 「手伝おうか」 「ううん。まかせて。ゆっくりしてて」 優しいところが彼の美徳だが、私が知る限り彼に料理経験はない。 部屋に戻るプランも考えたが...
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やがのいけこうえんで待つ

「貴様の大切な六歳の娘は預かった。返し欲しければ矢賀野池公園に来い」 「待ってください! 娘の、由衣の声を聞かせてください」 「いいだろう。ちょっと待ってろ」 「パパー、パパ―」 「冗談じゃないことはわかったろ。今から二時間後に1000万用...
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麻痺する必要のあった腕

あるとき、神経内科医の依頼で、過去三か月にわたって右腕が麻痺したままだという、中年の女性患者を診察したことがある。 突然発症し、これといった要因も神経学的な問題も見つからないため、心理的な原因を疑っているということだった。 私が診察したとき...
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過剰な言動にご注意ください

「乗ったら死ぬよ!」 ジェットコースターに並ぼうとしている時だった。物騒なことを言う子どもの声がして、僕は友人とともに声のした方を向いた。 声の方には僕たちが乗ろうと向かっていたジェットコースターがある。ジェットコースターは建物の入り口から...
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リラックスするぞ

朝目が覚めると、瞼をもう一度閉じた。 疲れが取れている気がしなかったし、今日は休日だった。 目をつむると、今週あった嫌なことが頭を巡り始めた。身体は疲れているのに脳は覚醒し始めている証拠だ。 良太は身体を起こし、顔を洗うことにした。 10月...
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動物園

歳をとると何でも教えてやりたいと思うようになる。 目の前にいる親子のような二人に話し続ける。 「象の花子はな、今はもういないがな。ここにはじめてきたときはそれはもう人見知りで、飯もくわない。どうしようってな、当時の担当の親方が頭を抱えていて...
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中途半端なタイムマシーン

小学六年生の夏。太郎たち三人の少年たちは、街のはずれにあるぼろ空き家にこっそり侵入した。 そこは誰からも見捨てられた場所で少年たちはここを秘密基地にしたかった。太郎は普段、機械をばらしては、組み立て直して遊ぶことが好きだったが、友人の秘密基...
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あか?ずきん

昔々、かわいい小さな女の子がいました。 ある日、その子を一番に可愛がるおばあさんが、その子に合うトランスペアオキサイドレッド色のビロードの頭巾をあげました。 そのトランスペアオキサイドレッド色のビロードの頭巾はその子によく似合っていたので、...
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三匹のぶたねこ

この店よくつぶれないなと思う店ってあると思う。 店内で人の姿を見たことなく、外見もさびれていて、今にもつぶれてしまいそうな店。 わたし自身がそんな店に入ることは趣味としてもないし、見つけたとしても入ることはないだろうと思っていた。 この日ま...
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研究所に入った泥棒

ハナバナ研究所に両手に収まらないほどの金が運び込まれた。 研究で使うためのものらしいが、田舎にある研究所の珍しい話はすぐに近くに住む人たちに広まってしまった。 次郎はその研究所に真夜中忍び込んだ。 彼は賭け事に熱中する質で、借金まみれだった...