50年以上前にできたセキュリティソフトを開発する○○グローバルインテリジェンス。
その創業者スティーブの屋敷に、一人の泥棒が忍び込んだ。
男は巨万の富を持つスティーブの屋敷に眠る数億ドルの現金を欲していた。
彼の屋敷には誰にも知られていない秘密の部屋が存在し、そこに数億ドルが眠っているのだという噂が裏の世界でまことしやかに囁かれていた。
「誰にも知られていない部屋ね」皮肉のきいた部屋だなと男は思った。男は過去にもこういった隠し部屋の類に忍び込んでは金目の物を奪い逃げおおせていた。
一生遊んで暮らせるお金と危険を冒したいという欲求が彼を泥棒たらしめていた。
事前に情報を集め屋敷にある隠し部屋にそれがあることを知った。見取り図を手に入れ、秘密の部屋の場所も特定し、完璧といえる作戦も立てた。
作戦は上手くいった。屋敷に潜入。特定した通りの場所に秘密の部屋はあった。
部屋に難なく忍び込むと、そこはなんの変哲もない寝室だった。ベッドがあり、本棚があり、ぬいぐるみまである。
寝室と明らかに違う部分は窓が無いことくらいだった。
スティーブに無骨な印象をもっていたのでインテリアに目を丸くしたが、こういうインテリアは仕掛けをカモフラージュするのに最適であることを知っていたので先入観を捨て去り、もう一度周りを眺めることにした。
「まあ、大体の予想はつく」
男はテレビ台のような小さなラックの裏側を手でなぞるようにまさぐる。
カチッと音がなり近くの壁の一部に穴が開いた。
秘密の部屋には隠された収納スペースがあるだろう。男の予想はあたっていた。
「なんだこれ、クマのぬいぐるみに……ガラガラかよ!」
男は収納スペースの中にある箱の中身を確認した。薄汚れたぬいぐるみに噛み後まみれのガラガラが入っているだけだった。
「くだらない」と呟いて中身を箱に戻すと、今度はベッドの裏を手でまさぐった。今度もまたカチッと音がなり近くの壁の一部に穴が開いた。
同じように収納スペースには箱が一つ入っていて、早速中身を確認する。今度はランドセルと遠足のしおりが入っていた。しおりの表紙の絵を描いたのがスティーブとかかれていた。
「今度は小学生の思い出かよ!」日本に住んでいた時期があったのか。別に今要らない情報が手に入った。
男は怒りがこみあげてきたがそれでもまだ隠し場所があるだろうと思い懸命に探した。
それから12カ所以上もの隠しスペースを発見するが、どれも大富豪の思い出品ばかりで金目になるようなものは一つも出てこなかった。
男はあきらめて秘密の部屋を出た。
部屋の向こうでは銃を構えたSPたちが立っていた。男は「そりゃそうか」泥棒としてお邪魔するにはいささか長すぎる時間がすぎた。とため息をつき両手を挙げて膝をついた。
スティーブは秘密の部屋に入った。部屋の様子を確認するためだった。
くまのぬいぐるみとガラガラのあった隠しスペースへ一目散に向かう。箱を取り出して、隠しスペースのさらに奥を手でまさぐってスイッチを押す。奥の壁が開いて大金が目の前に現れた。
「ああ、よかった。隠しスペースの隠しスペースまでは気付くことはできなかったか」