人間に知能が近い生物と会話ができるヘッドギアが開発された。
このヘッドギアは人と動物両者の頭部に装着する。
どちらかがしゃべるとその言語が相手側の言語に変換される仕組みになっていた。
初の実験の対象はイルカになった。
脳が人間よりも大きいこと、非常に知能が高い動物で、ショーがあるくらい人気があることが選考の理由だった。
当時、人のいる港に出没することで、ニュースに取り上げられていたイルカが相手として選ばれた。
そのイルカは人に慣れているのか抵抗することはなく、ヘッドギアを装着した。
実験は滞りなくに行われた。
会話はスムーズに進み、イルカの名前がマーチであること、彼は人間に興味があるため港をよく見に来ることがわかった。
実験は大成功だった。
「すばらしい時間だった。またお話をしよう」
「もちろん。今度は友人を連れてきますよ」
友好的な会話で締めくくられ学者たちは成果に満足した。
マーチは人間たちが見えなくなるまで泳ぐと、そのまま海へ潜っていった。
彼は海底を目指して泳いだ。
道中、友人のカーラがこちらに向かってきた。
彼女はマーチが人間とやりとりしているのを遠くで覗いていたのだ。
「どうだった」
彼の答えをすでに予想しているかのように短い質問をした。
「人間たちは頭に装着する機械で僕と会話をすることに成功してたよ」
「へぇー、文明のレベルはまだまだね」
やっぱりと言いたげな含みのある笑みで、彼女はすぐに興味を失ったように、マーチに短く挨拶するとそのまま反対方向に泳いでいった。
海底付近まで近づくと、宮殿とそれを囲むように家が建ち並ぶ場所が視界に急に現われた。
イルカが近くにくると視界に映るようにカモフラージュ機能がついているその場所はマーチの住処だった。
この技術は数百年前に開発され、今やイルカの住処では、田舎ですら使われている技術だ。
人がこの街を見つけることはまだしばらく先だろう、マーチはそう思った。