ライトアップ

ショートショート

イルミネーションを見に行こうと、彼は私を連れて車を走らせた。

「今話題の変わったイルミネーションがあるんだよ」

9月にライトアップされている場所なんてないわよ、という私の言葉に彼は目をキラキラさせてそう返した。

海沿いの道路を走り1時間がたつ頃に、彼は窓を開けて少し先の海に向かって指をさす。

パチッパチッ

風に乗って、松ぼっくりを焼いたときの音がきこえてくる。薄暗くなってきた海岸の上で、オレンジ色の光がトビウオのように飛んでいた。

光は無数に四方八方、無秩序な動きで飛んでいる。そのダイナミックな光景は私をひきつけた。

「あれはね、線香花火の光だよ」

「あんなにでかいものが?」

「そう。今年の夏にこの先の海岸で起こった出来事なんだけど。とある高校生たちが手持ち花火で遊ぶことにした。
クラスメイト全員で集まってその子たちは一通りの花火を楽しんだ。
最後に線香花火をやることにしたんだが、いたずらっ子がいたんだろうな。一人が買ってきた全ての線香花火を両手で束にして、友人に着火させたんだ。
線香花火は大きな一つの玉を作って、大きく綺麗な火花を散らした。
それをみてクラスメイトは大盛り上がりだ。さらに玉を大きくしてやろうと、追加で花火を買ってきたり、海岸に落ちている線香花火を拾ったりしては大きな玉に吸収させた。
玉はどんどん大きくなり、異常なほど長時間燃え続け、ついには彼らの手に負えなくなるまでになった」

「海につけてしまえばよかったんじゃない?」

私はすぐに頭によぎったことを口にする。

「まったくもってその通りなんだが……その大きく膨らんだ線香花火をもったいなく思ったんだろうな。ここまで自分たちで成長させた結晶を自らの手で台無しするのははばかられた。
そこで近所の人に頼ることにしたんだ。その人は急いで持ち手部分を固定具をつくり、固定した。変わったおじさんだったらしい。
彼はさらに線香花火を膨らませてみたいと、ネット注文まで駆使して線香花火を買い集めた。事は玉と一緒にどんどん大きくなり、長時間燃え続ける不思議な線香花火に関わる人間が増えていった。
今や観光地のような扱いとなり、線香花火を見に県外からも来るようになった」

彼は得意げに話しながら、車をその光のほうへと向かわせる。あたたかなオレンジ色の火花がより見えるようになる。

「いつ燃え尽きるかもわからないんだ。見れるときに見とこうと思ったんだ」

彼は今日、SNSで巨大線香花火の存在を知ったのだろう。フットワークの軽さも彼の魅力だと私は思った。

「見れてよかった。ありがとう」

海岸沿いの駐車場に車をとめた彼にお礼を言った。彼は微笑みながらうなずき、それから巨大な線香花火の大玉を難しそうに眺めた。

「火花は綺麗だったけど、大玉は不気味な感じがして気持ち悪いね。イルミネーションも、光が見たいだけで電球が見たいわけじゃない。それと一緒かも」

彼は正直な感想を言った。私も改めて線香花火を見る。同感だと笑った。

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