「ひいろ君、新たな武器が完成したぞ!」
「やりましたね博士! これで憎きジャマー団に立ち向かうことができますね」
ひいろたちの小さなヒーロー組織は、大手悪の組織ジャマー団に手も足も出なかった。
彼らの財力を存分に振るった数々の強力な武器や道具にかなわなかったのだった。
博士はそんな状況を一刻でも早く解決しようと、日夜研究に励み、今その努力はひとつの形になった。
「いったいどんな武器ですか! 早く見せてください」
「ああもちろん、じゃじゃーん!」
子どものように楽しそうはしゃぐ博士は、後ろの工具机の上にあったそれを手に取った。
ひいろは掲げられた武器をみて愕然とした。博士は構わず、喋りだす。
「これは外国の同業者のところに遊びに行った時に、見つけたものからインスピレーションを受けたんだ。
スポークという食器でな。
棒状の先にスプーンとフォークが片方ずつついている。
わたしはこれを槍のように長くして武器としてアレンジした。
その名もバトルスポークじゃ!
この武器は伸縮自在で本物のスポークとして持ち歩けるし、伸ばすことで最大10mの棒の部分をのばせる。
その形状から”突”と”打”の両方の攻撃を可能にしていて敵怪人のスタイルに合わせて有効な戦法をとることができるぞ。
さらに特別な機能として、スプーンの部分には相手の魔法攻撃を受け止める能力があり、受け止めた魔法は球体となり相手に跳ね返す
ことができる。
フォークの部分は縄のように相手を捕縛する機能をついている。もちろん人を救出するのにもつかえるのじゃ!」
「ダサくないですか」
「へ?」
博士の嬉々とした説明はひいろには全く頭に入らなかった。
ひいろは一応小さい組織ながらも正義のヒーローだ。
剣や銃ならともかく、こんな魔改造食器で戦うというのはあまりにかっこつかない。
子供たちへの影響にも悪いそうだ。親御さんからクレームが来るんじゃないか?
「うちのこが食器で遊ぶようになりました。あなたのせいですよ!」って。
浮かび上がる批判が止まらないひいろだったが、言葉をできるだけ選んで博士に伝えた。
「ひいろ君見た目なんていいじゃないか」
「いや重要ですよ!」
聞く耳を持たない博士とそれから2時間ほど二人は話し合った。
せめて食器からかけ離れた見た目にしてくれないかだとか、いやこのシンプルでありながら機能美である良さがあるだろうとか、話は平行線だった。
それから博士の説得で一度だけ試してみることとなった。
人に見られたくないため、怪人が人の少ない場所に現われた時にした。
「つっつよい」
廃ビルの地下駐車場で、2体の怪人に対してひいろは圧倒した。
その後も人が少ない場所に限り、このバトルスポークを使い敵を倒し続けたため、怪人たちから”食器を持った死神”と恐れられるようになった。