つまるところ

ショートショート

 「おはようございます、部長」
 「ああ、おはよう。今日はどうした、休むのかい?」
 「実は今、○○橋の上にいるんですよ。ああ、車でですよ? さすがにのんきに散歩してここまで来たわけではないです。
徒歩なら40分はかかってしまいますからね。いやー橋の上からの景色は一見の価値ありですね。
こんな状況じゃないとなかなか見ようと思わないもので。こういうのも現代っ子という感じに思われてしまうのかな? 
家でなんでも見れる時代じゃないですか。なかなか景色を味わう時間をとらないですよね」
 「うん」
 「あっと、すいません。橋で景色を見ていることを伝えたくて連絡したわけじゃなくてですね?
どうやら橋の向こうの道路で事故が起きたみたいで。近くのドライバーさんの話を聞くとですねー。
大型トラックの積み荷が落下してしまったみたいなんです。
積み荷に後続の車が巻き込まれて、悲惨な話なんですが、車がぺしゃんこになってしまったらしいです。
怖いですよね。聞いた瞬間ゾッとしました」
 「うん」
 「それでもう通勤時間なのにサイレンが大合唱です。車道は車というお客さんで満員御礼。
どうです?上手いこと言ったと思いません?要は渋滞で一歩も動けないんです。」
 「うん」
 「そんなこんなでかれこれ30分はここにいます。橋の上にですよ。
もちろん就業時間が過ぎてしまっていることも知っています。
いやー言い訳ではないんですけどね?
その僕と話してくれたドライバーさんの話が面白くてついつい時間を忘れて連絡が遅れてしまったんです」
 「うん」
 「それがですねドライバーさんは元大型トラックの運転手さんらしくて、その時も同僚が今日と同じような事故を起こしてしまったそうなんですよ。
いやーその時の話をしてくれたんですが、なかなか刺激的でして、運転手がこの後どういう処遇を受けるのかとか教えてもらったんです。現場の話は貴重ですね」
 「うん」
 「そうそう、そのドライバーさんは今__」
 「田中くん」
 「はい」
 「話、長いよ」
 「はい」
 「要するにこれは遅刻の連絡だね」
 「はい」

タイトルとURLをコピーしました