歩いていく

 昨日から降り続けていた雪は小降りになっていた。
 旅行に出て一日目、夕方になり急に吹雪いてきた。その時点で、ホテルにチェックインを済ましていたので積雪の状態をみたのは二日目の今日が初めてだった。
 彼女と外に出て、駐車場へと移動した。
 雨も混じっていたのだろうか、雪は2㎝も積もっていない程度だった。
 これなら大丈夫だろう。俺は車にエンジンをかけて暖房をつけた。雪と氷でフロントガラスが見えない状態だった。
 「今日は予定通りに水族館へ行こう」「ええ、たのしみね」
 助手席の彼女はスマフォでナビを設定してくれている。
 フロントガラスが濡れて、雪が車内越しからも分かる。ワイパーで二拭きすると視界は良好になった。
 「いざ行こうか!」
 「ちょっと待って!」
 気合を入れていざ、とシフトを変えた時、彼女の声でブレーキを踏んだ。一度ニュートラルに切り替えてから、彼女の方を向く。
 彼女はフロントガラスの先を指差していた。正確には前方のより右下、右前タイヤの付近を差している。
 「亀だね」「亀ね」
 そこにいたのは亀だった。しかもでかい。亀は俺たちの乗る車の前を横切ろうとしていた。
 足元を注意していたわけではないため気が付かなかった。危うく踏んづけてしまうところだったと、ふぅと呼吸をする。
 のっそのっそと歩いている。遅い、驚くほど遅い。横切るのに1時間はかかるんじゃないかと思うような進み具合だ。
 思い切って、手で持ち上げてどかそうか。そう思ったが、この重そうな亀を持ち上げられるか自信が持てなかった。しかも、外は寒い。あの甲羅なんて持ったら手がしばらく動かなくなるんじゃないか。でもこのまま待つのもさすがに……
 悩んでいる俺の隣で、彼女がふふっ、とかわいらしく笑った。彼女はこちらを振り向いて「車はやめましょう」と提案した。
 俺はすぐに同意した。こんな日があってもいいじゃないか。
 「路面が凍っていて危なそうだし、そうしようか」エンジンを止めて二人で外へ出た。
 「まずは駅を目指そう」俺は彼女の手を握り歩き出した。

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