ショートショート

おもてなしバス

ボロいアパートに住んで失敗した、と思った。 風呂に入ろうと蛇口を回す。水が出る。だが一向にお湯はでない。 今日は夕方まで雪が降っていたためかなり冷え込んでいた。そのせいでお湯が出なくなってしまったらしい。安いアパートにはたまにある。俺が体験...
絵語り

死神の花

死者の眠る墓に咲く花がある。この町の言い伝えの中で有名な部類の話だ。 真っ黒な花弁をもつ美しい花で、それを持つと、死者の記憶を覗き見ることができる。その花は”死神の花”と伝えられていた。 死者の記憶を吸収し、そのエネルギーを花に蓄えるためだ...
ショートショート

ある日の会議

「では会議をおこなう。今回の議題は__」 会議室で8つの席、そのうちに座るひとりが話始める。 私は窓から見える位置に座っているため、外の景色を眺めてみた。すでに人がゾンビのようになって路上を埋め尽くしていた。 私の働く製薬会社が密かに研究を...
絵語り

歩いていく

昨日から降り続けていた雪は小降りになっていた。 旅行に出て一日目、夕方になり急に吹雪いてきた。その時点で、ホテルにチェックインを済ましていたので積雪の状態をみたのは二日目の今日が初めてだった。 彼女と外に出て、駐車場へと移動した。 雨も混じ...
絵語り

横文字不快指数測定

Aさんお疲れ様!最近、新しいプロジェクトに取り組んでいるんだ。レバレッジを利用して、少ないリソースで大きな影響を出せるように計画をしているんだよ。レバレッジ:ビジネスや投資の文脈で使われることが多い言葉で、少ない力や資源を使って大きな影響を...
ショートショート

味見検定

「今日は僕がビーフシチューをつくるよ」 そう宣言した彼は、冷蔵庫を開けて必要な食材を取り出した。 「手伝おうか」 「ううん。まかせて。ゆっくりしてて」 優しいところが彼の美徳だが、私が知る限り彼に料理経験はない。 部屋に戻るプランも考えたが...
ショートショート

やがのいけこうえんで待つ

「貴様の大切な六歳の娘は預かった。返し欲しければ矢賀野池公園に来い」 「待ってください! 娘の、由衣の声を聞かせてください」 「いいだろう。ちょっと待ってろ」 「パパー、パパ―」 「冗談じゃないことはわかったろ。今から二時間後に1000万用...
ショートショート

麻痺する必要のあった腕

あるとき、神経内科医の依頼で、過去三か月にわたって右腕が麻痺したままだという、中年の女性患者を診察したことがある。 突然発症し、これといった要因も神経学的な問題も見つからないため、心理的な原因を疑っているということだった。 私が診察したとき...
ショートショート

過剰な言動にご注意ください

「乗ったら死ぬよ!」 ジェットコースターに並ぼうとしている時だった。物騒なことを言う子どもの声がして、僕は友人とともに声のした方を向いた。 声の方には僕たちが乗ろうと向かっていたジェットコースターがある。ジェットコースターは建物の入り口から...
ショートショート

リラックスするぞ

朝目が覚めると、瞼をもう一度閉じた。 疲れが取れている気がしなかったし、今日は休日だった。 目をつむると、今週あった嫌なことが頭を巡り始めた。身体は疲れているのに脳は覚醒し始めている証拠だ。 良太は身体を起こし、顔を洗うことにした。 10月...