ショートショート

ソープフラワー

「なあ、ちょっと寄っていこうぜ」 友人が、にやりと笑いながら指をさす。僕らは昨日から2泊3日の旅行に来ていた。早めに夕食を取ったせいで、小腹が空いていた。俺たちはホテルに帰る途中にあったデパートの地下に寄ることにした。彼が指さすのは、カーテ...
ショートショート

窓カエル

カエルの裏面を毎日眺める。 コンビニ弁当をぶら下げて、僕はアパートに帰宅した。最近は、また少し弁当が高くなった。追加でおにぎりを買うか悩んで、やっぱり買えばよかったと靴を脱ぎながら思った。 弁当を電子レンジに入れる。温めにかかる5分間で、僕...
ショートショート

歯ごたえのないもやし

昼寝のつもりが、目を覚ましたときにはすでに19時を回っていた。薄暗くなった部屋の中、リモコンを探す。手元にそれはあった。 「明日は日曜日だし、別にいいか」と呟いて、体を伸ばす。肩や背中がパキパキと鳴り、若さのかけらもないあくびが洩れた。 空...
ショートショート

桃太郎面接

桃太郎は鬼退治の準備の一環として、お供を選ぶ面接を行っていた。大人に勝る力と剣術をもつ彼も、戦いにおいては一人では心もとない。そこで、信頼できる仲間を選ぶために、近隣の村々から応募者を募った。「本日はよろしくお願いします」会場には、腕に覚え...
ショートショート

廃遊園地

遊園地の一角にあるメリーゴーランドの上に2羽のカラスが止まりました。カラスのコウとミドリは、ほこりをかぶったジェットコースター。さびれたレール。音のしない暗闇のゲームコーナーを見渡しながら羽を休めます。「ずいぶんと寂れてるなぁ。なあ、ミドリ...
ショートショート

後ろの席のカップルさん

「飲みたいなー」その友人の一言は僕も賛成だった。友人と二人で旅行に来て2日目の夜、適当なところで酒を飲むことにした。銀だこが目に留まったのでそこへ入る。銀だこは、たこ焼きを売っている屋台のようなイメージだったので店を構えているのにまず驚き、...
ショートショート

オタクな姉と

「等身大フィギュア80万だと!? 買わねば」騒がしい独り言に、またかと、真奈はうんざりする。彼女にとって姉の柚樹の独り言は面倒くさい状況になったサインだった。「お姉ちゃん。どうしたの?」「おお妹よ。聞いてくれ実は『A#3』の私の推しが現実に...
ショートショート

筐体壊れがち

偶然が重なることでその人の特徴を位置づけることがある。雨男(女)がいい例だと思う。遠出をすると、当日は雨が降っているケースが多いから自分や特定の相手に冗談でつける異名みたいなもの。科学的根拠なんて一ミリもないし、何だったら2度の偶然程度であ...
ショートショート

ユニゾンシガレット

2050年、人間とAIが共存する社会が実現した未来。そんな世界で、私は最新型のAIパートナー「ユニゾン」を手に入れた。ユニゾンは人間のように感情を持ち、共感してくれる存在として世に出回りスマホに劣らない所持率を誇るようになった。ユニゾンはパ...
ショートショート

アンドロイドの夢

20××年。地球上では人類は滅亡していて、過去に人類が作り出したアンドロイドだけが生きている世界になっていました。アンドロイドは人間に近い存在でしたが、夢を見ることがありません。そもそも眠る必要がないため、夢というのは知識として学習しただけ...